和歌山市水道局真砂浄水場
和歌山市水道局真砂浄水場
■ 完成年 量水井・北送ポンプ室・集合井:大正14年(1925年)
発電室:昭和11年(1936年)
南送ポンプ室(1954年)
■ 設計者 不明
■ 構造 いずれも鉄筋コンクリート造平屋
非常に貴重な体験をした。和歌山市吹上、道路からやや小高い丘にある浄水場の存在こそは知っているものの普段出入りすることもなく、また目に留まる事も少ない故、初めて訪れた瞬間にその雄大な空間に息を呑んだ。丘の上から北を望めば遠くには紀の川、紀伊山脈を望み、眼下には住宅街が遠くまで続く。
広い敷地には北送ポンプ室、発電機室、南送ポンプ室と特徴的な3つの建物が現存する。いずれの建物も平屋ではあるがボリュームは大きく室内は非常に広々とした空間が広がる。最も古い北送ポンプ室は大正14年の竣工で現役である。正面入口の庇持ち送りには控えめな装飾がなされている。上部の半円形の窓など当時の建築デザインの思潮を汲んでいると思われる。昭和11年竣工発電室は人口増加に伴う給水需要に応じて建設された。柱間にサッシが納められ袖壁も少ない。高い天井空間も合間って内部空間は実に広々としている。こちらも昭和初期のデザインを汲んでいると考えられる。最も新しい南送ポンプ室の特徴は外観である。前述の建物が正面玄関に対してシンメトリーにデザインされているのに対し、建物の隅部に大きな開口部が儲けられている。
いずれの建物も基本的には合理的に設計されているのであるが所々装飾がなされ当時のデザインを垣間見る事ができる。また前述の建物以外にも量水井についても同様の見解である。
このようなインフラストラクチャーを扱うのは昨今の経済状況を通して見れば非常に難しいことがある。前述のような合理的、そしてコストを追求するあまり、少々薄味の建物になり勝ちである。しかし、かといって装飾に富んだ建物もプログラムとしてはふさわしくなく、短絡的である。しかし、広く目を向ければ実にすばらしい解答例を見出す事もできる。その鍵はやはりデザインであろう。大正時代、機能を追求しつつ控えめながらも装飾を残した発電室を見れば少なからずそれらの意図を感じることができる。よって、これらの建物をきちんと評価し、メンテナンスをし、後世に語り継ぎ存続させていくことが必須であり、それがこの時代を生きる我々にとっての使命なのではないだろうか。また、保存と同時に運用方法も勘案する必要もあるであろう。
小高い丘の上に立ち、広い敷地に並ぶ現役の建物を見て色んな思いをめぐらせることができました。
【会報誌きのくにH24年5月号掲載】
情報・出版委員 東端秀典