田辺市新庁舎

田辺市新庁舎

■所在地 田辺市東山一丁目5番1号

■規模  敷地面積12,913.23㎡、建築面積4,945.48㎡、

■延べ面積17,236.99㎡

■構造  地上6階、鉄筋コンクリート造

1階柱頭免震構造(球面すべり支承)

一部プレストレストコンクリート造、鉄骨造

■設計・監理 (株)石本建築事務所大阪オフィス

■施工 (建築)田中・東宝・山幸特定建設工事共同企業体

(電気)第一テック・光明・岩本特定建設工事共同企業体

(機械)一工・山本・第一特定建設工事共同企業体

 

田辺市新庁舎の立地するこの場所は、かつて「オークワオーシティ田辺店」と「紀伊田辺シティプラザホテル」が立地していたところである。2016年の田辺市庁舎整備方針検討委員会の市役所本庁舎と市民総合センターの整備方針として「津波・洪水の想定浸 水域外で、かつ、中心市街地から近い場所に、両庁舎機能を統合した新庁舎を、早期に 整備することを結論とします。」との答申を受けて、この地を選定したものである。この地は、海抜19mで紀伊田辺駅からも遠くなく、バスも5路線(48本/日)と利便性も高く、新たに山林を造成する必要もなく人口減少時代に適応したもので、まさに、ここしかないという場所である。

免震装置据え付け状況

市庁舎であるから、免震構造は当然である。しかし、この敷地は北側と南側で約9mの高低差があり、地盤は岩盤である。この中で採用されたのが、1F柱頭免震構造で非常に珍しい球面すべり支承を採用している。球面すべり支承とは、振り子の原理を利用し、地震時にはスライダー(短い円筒で上下が球面)が上下の球面状のすべり板の間で振り子のように移動し、地震エネルギーを吸収しつつ、建物をもとの位置に戻す免震装置である。ダンパーが不要であるので階高を有効に利用でき、柱頭免震によって岩掘削量を削減しながらも9mの高低差を2フロアとすることができたのである。

 

外観を特徴づけている木格子は紀南の非常に強い日差しを和らげるだけでなく、冷たくなりがちな庁舎建築の印象を柔らかくする。そして、この木格子は熊野古道の木立をも連想させるとともに、5本1組とすることにより5市町村(田辺市、龍神村、中辺路町、大塔村、本宮町)が合併した新田辺市を表現していて、内部の150角の木格子には合併5市町村それぞれから切り出された木が使用されている。

 

南側でオークワ田辺東山店と歩道橋でつないでいる。これはオークワの3階を来庁者駐車場に、4階、5階、屋上を公用車駐車場としているため必要となったものである。利便性を考えて屋根付きとしたため、道路上の建築物として建築許可が必要となったが、公益上必要な建築物と認められ、開放性の高いものとすることができた。この歩道橋は北側の大階段と併せて、四角の箱になりがちな庁舎建築に躍動感を与えている。オークワ田辺東山店はオークワオーシティ田辺店の閉店により不便となる地元住民からの要望によりオークワに出店してもらったもので、建物は田辺市と(株)オークワの区分所有とした官民連携により実現したものである。

 

庁舎東側を交流モールと位置づけ、3階にはカフェ、2階には市民が自由に使えるコミュニティスペースを設けている。さらに、3階に銀行の支店を誘致し、6階には展望テラスを設けた。住民票取得などの用件をすますことにとどまらない利用を期待している。

 

 

北側からは1階から3階に、南側からは3階に、オークワ側からは歩道橋を介して4階に、というように多様なアクセスをもっている。吹き抜けと見通しの良い階段を多く設け、できるだけ廊下ではなくロビーで用件の部署に行けるようにした。このことで内部空間に開放感と躍動感をもたらしている。

【会報誌きのくにR6年11月号掲載】

情報・出版委員 中西達彦(元田辺市理事)

 

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