県立紀伊風土記の丘 松下記念資料館
県立紀伊風土記の丘 松下記念資料館
■ 設計 浦辺鎮太郎 浦辺建築設計事務所
■ 施工 島田組
■ 竣工 1970年(昭和45年)
■ 構造・規模 鉄筋コンクリート造2階建
和歌山市にある県立紀伊風土記の丘松下記念資料館です。この建物は文化庁が主導していた風土記の丘設置構想に基づき国内で3番目に計画された事業の中の建物です。遺跡と博物館、民家をまとめて展示し全体として保存・研究の実践の場として計画されました。主たる目的として、国の特別史跡である「岩橋千塚古墳群」の保存・研究そして活用があります。
この遺跡・博物館・民家の中で博物館の機能を担うのが前述の松下記念資料館です。地元の名士、松下幸之助氏による寄付を経て昭和45年に竣工しました。設計はモダニズム建築で定評のある浦辺鎮太郎先生です。
明快な柱・梁による構成は近代建築そのものです。傾斜敷地に沿って計画された建物はちょうど2階建て部分が前方に広がる公園に繋がります。建物の外観は弥生時代の高床式住居を模して計画されており、ピロティ部分はトップライトが差し込み神秘的な演出がなされています。外壁には地元原産である青石を小口積みで設置し、古墳の風情を助長させています。また、同じくファサードを印象づける入口の門、開口サッシ部分の格子は同じく弥生時代を彷彿させる模様を模したアルミの鋳物で覆われています。内部の展示室にはピロティ部分にも差し込むトップライトが見える仕掛けが施され、それらを中心に展示がなされています。ファサードと同様、かつての竪穴式住居を彷彿させるような勾配のある天井、それらを構成する木部は展示内容とも呼応しており大変魅力的です。
総面積65万㎡にも及ぶ園内はとても広く、自然も豊かです。多くの古墳が点在しゆったりとした時間が流れています。そんな園内の玄関口として、中心施設として、大きな意味合いを持つのが本建築です。アプローチ部分の広い開口は訪れる者をゆったりと迎え、奥に差し込む光に誘われるように古の世界へ誘います。一貫されたコンセプトをコンクリートよる力強い構成、テクスチャーの操作により、違和感なく成立させている本建築は浦辺建築の特徴的な作品の一つとして位置づけられると考えられます。このような著名な建築家の作品が和歌山に現存することは大変貴重であります。と同時に、このような機会を作った松下幸之助氏の地元へ文化事業における功績は忘れてはなりません。同時期に完成している松下体育館を思えばなおさらです。ぜひ皆様も一度足を運んでみてください。
【会報誌きのくにH26年7月号掲載】
情報・出版委員 東端秀典