旧海南市庁舎

海南市庁舎

■昭和40年(1965年)竣工

■構造 本館  RC造地上6階・地下1階建・屋上庭園・塔屋3階建

消防棟 RC造2階建、現業棟 RC造2階建

■建築面積 1896.34㎡

■設計:株式会社 三紀建築事務所

■施工:株式会社 大末組

 

海南市民にとっては馴染み深いコンクリート建築、それは中心街に古くから立地し、この街の繁栄を長年見続けていました。昭和40年竣工の海南市庁舎は実に美しいファサードと透明性を持ち合わせた文字通り大変すばらしい理想的モダニズム建築です。

 

建築界では著名なフランスの建築家・ルコルビジェが提唱した近代建築の5原則(ピロティ・自由なプラン・水平連続窓・自由な立面・屋上庭園)を如実に実現している建築物であることが見学を通して再確認できました。

 

現在は改修されていますがピロティにより地表より持ち上げられた北側エントランスは訪れる人を緩やかに導き、また市民の憩いとなったと考えられます。約8m間隔できちんと羅列された強靱な柱・梁により自由な平面プランが可能であり、当時の執務空間としては先進的なヴォリュームを兼ね備えていたと考えられます。また、安定した構造のおかげでカーテンウォールが美しく成立し、より明るく透明性を持ち合わせたファサードが実現しています。いわゆる、水平連続窓の具現化であります。現在は改修されていますが東面のファサードは南に延びる消防棟まで水平に伸び、実に美しいプロポーションであることが当時の図面から確認できます。立面を眺めていると細かな意匠が匠に実現されています。階段シャフトの明かり取り窓は丁寧なR曲面を持ち合わせた水切りがあり、3階から上の階にあるコア部分も出隅はR曲面で面取りされています。北面の窓の割り付けも特徴的です。縦方向に細長い細かい割り付けジャンヌレ邸やラトゥーレット修道院(設計:ルコルビジェ)に見られる意匠的特徴に相通じます。

 

さて、これまで近代建築5原則のうち4つは確認できました。残る一つは空中庭園です。本建築にはきちんと空中庭園があります。4階の市長室・副市長室に各一カ所ずつあります。東に向かっておよそ3坪程度の広さですが枯山水を思わせる意匠が確認できます。私はこの計画こそ本建築のすばらしい評価点であると思っています。屋上庭園と空中庭園は意味合いが全く違います。空中庭園の具現化を地方都市の市庁舎で実現していたという事実には圧巻で有り、地元市民として誇りです。なお、地下の食堂に面してサンクンガーデンもあることも忘れてはなりません。

 

竣工年である昭和40年は時を同じくして丹下健三による代々木体育館や坂倉準三による芦屋市民会館(現:ルナホール)が完成しています。この時期に完成した建築群はいずれも近代建築やモダニズム建築と呼ばれ全国の建築家がその手腕を振るって力作を残した時代であると位置づけられます。これらの巨匠の作品と比べても本建築は立派に成立していると考えられます。このような建築があったという記憶を、地元の建築人として忘れてはならないと思います。最後になりましたが、神出市長にはお忙しい中取材対応頂き、当時の海南市の様子などを伺う貴重な機会を頂戴しました。ありがとうございました。

※平成30年に役目を終え解体されました。

【会報紙きのくにH28年2月号掲載】

情報・出版委員会 東端秀典

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