委員会・支部活動報告
(一社)和歌山県建築士会那賀支部設計部会・那賀支部合同見学会報告
去る6月13日(土)那賀支部設計部会と支部合同の「竹中大工道具館」と「ヨドコウ迎賓館」の見学会を開催しました。
総勢25名の参加を頂き、岩出市を中型バスで出発、まずは最初の目的地の竹中大工道具館へ到着。緩い坂道沿いの中層建物の谷間に木々に囲まれた空間の中に和風のくぐり門、その奥に寄棟造りの平屋の建物が見えます。
この竹中大工道具館は二代目で最初は違う場所に1984年に設立、30年が経過し新しく2014年10月に、ここ新神戸駅近くに新築移転した地下2階、地上1階建ての鉄骨鉄筋コンクリート造の施設で、①「人と自然をつなぐ」・②「伝統と革新をつなぐ」の二つのコンセプトで構成されているそうです。
ロビーに入ると、杉の無垢材で組み上げた舟底天井の柔らかく広い空間が出迎えてくれます。
展示室は地下にあり光庭(中庭)に沿って階段を降りると、吹抜け空間に7mを超える高さでそびえ立つ国宝・唐招提寺金堂の柱と組物の実物大模型が目に入ります。間近で細部を見ることができ圧巻でした。
展示室は7つのゾーンに分かれており、その1つには20世紀中頃の道具一式を一面に展示された「大工道具の標準構成」コーナーで、日本の大工がいかに道具にこだわったかがわかる展示、又、別のコーナーでは実物大の大きさで再現された茶室のスケルトン模型で、これは京都・大徳寺玉林院にある蓑庵(1742年建立)の写しとして本職の数寄屋大工の方が製作したそうですが天井と壁の一部取り払っているので、仕口、木舞組等、精細な仕事を観察することができ大変印象に残りました。
約1時間30分の見学時間でしたが、時間が足りず再度訪問したいと思っています。
続いて中華料理で昼食を取り、次の目的地のヨドコウ迎賓館(山邑家住宅)向かいました。
到着後、2階の応接室に案内され、そこで館長の山元様より歴史的な流れ等の詳細な説明をして頂き、その後各自、自由に見学しました。
山邑邸は、F・L・ライトの設計で酒造家の山邑太左衛門の別邸として大正13年に竣工。
後に事務所として使用、又、進駐軍に押収等の履歴があり、淀川製鋼所の所有と移りますが当初はライトの設計と知らずに購入したそうです。
一時期、取壊し計画となり保存運動により社長に談判し保存されることとなり、昭和49年に国指定重要文化財に指定され、後に大規模な補修工事が施こされ平成元年一般公開されるに至ったそうです。
この建物は南斜面に自然に調和するように建てられており、斜面に沿うように4階建てで各階を階段状に設計された鉄筋コンクリート造です。
特徴である外観から屋内にまで構成する彫刻を施した大谷石は、栃木県の宇都宮産で、驚いたことにコンクリートの型枠代りに使用しているとの事でした。
もう一つ、天井際に連続して設けられている通風用の小窓(扉)に興味を持ちましたが雨仕舞が気になり館長の山元様にお聞きしたところ、やはり風で雨が舞い込むので、その時は職員で開け閉めしているとの陰のご苦労をもお聞きしました。
ともあれ、和洋が融合した和室、飾り銅版と影、ガラス越しの木洩れ日、等、自然との調和、一体化をテーマとしたF・L・ライトの建築を見学することが出来、大変有意義な見学会でした。
梅雨入り期間にもかかわらず天候にも恵まれ、無事故で帰路に着きました。
長時間の説明をして頂いたヨドコウ迎賓館・館長山元様、並びに参加協力頂いた支部の皆様に御礼申し上げます。
那賀支部設計部会 部会長 橋本 貴平太
カテゴリ:那賀支部 投稿日:2015.09.01
「海鼠壁の武家屋敷・旧和歌山藩士大村弥兵衛長屋門」講演会報告
「海鼠壁の武家屋敷・旧和歌山藩士大村弥兵衛長屋門」講演会報告
日時/7月5日(日)13:30~15:40
場所/和歌山県立近代美術館(和歌山市)
参加/会員・一般参加者を含め約80人
第1部 「武家屋敷門長屋旧大村弥兵衛屋敷」の上映
歴史的建造物映像化の会 代表 中西重裕(本会副会長)
第2部 なまこ壁の武家屋敷・旧和歌山藩士大村弥兵衛長屋門
文化財建造物保存修理技術者 鳴海祥博
旧大村家住宅長屋門は、県庁の北、有田屋町にあった大村家住宅を明治期に堀止東に移築し利用されていたもので、紀州徳川時代の貴重な武家屋敷の遺構です。移築により戦災を免れましたが、江戸期のオリジナルではなくなったことから文化財としては低く評価されてき
ました。解体が決まったことから、歴史的建造物映像会のから所有者に記録保存を要望し、所有者の承諾を得て記録が行われましたが、この記録活動の報道をきっかけに県の支援を得て、一転、保存されることとなったものです。建築士会では支部活動や会員個人の活動として、これまでいくつかの建物の解体に先立ち、見学会や記録保存を行ってきましたが、今回は建築士の活動が保存に結びついた貴重な事例となりました。
このような経過から、本講演会では、保存のきっかけとなった歴史的建造物映像化の会による「武家屋敷門長屋 旧大村弥兵衛屋敷」の上映と、移築プロジェクトの技術監修をされている元和歌山県文化財センターの鳴海祥博さんにご講演いただき、解体調査で明
らかになったこの建物の歩んできた経過、文化財や地域資源としての価値について解説をいただくとともに、鳴海さんがいままでに手がけてこられた経験から文化財
保存がなぜ必要なのかとについてご講演をいただきました。また、会場には図面や海鼠壁に使う平瓦、屋根瓦、また、和歌山市支部事業委員会で調査を実施、保存活動を行っている貴志邸の資料を会場に展示しました。
講演では、この門長屋の来歴、門長屋という建築物の機能、和歌山城周辺のまちなみ(戦前このような長屋門が立ち並ぶ武家屋敷町が形成されていた)、海鼠壁の機能と歴史について説明がありました。門長屋は武家の格を表す門の機能と武家に求められる戦時の兵力となる家臣の住居の機能を兼ねたもので、石高により門の構成も変わることが紹介されました。また、海鼠壁については明暦の大火以降、幕府が進めた延焼防止のための防火構造で、全国的にも残っていることが貴重な状況であることが報告されています。
今回の講演会では
1)文化財指定されていないが、歴史的価値のある建造物はたくさん存在する
2)歴史的建造物が残るためには建築士等地域の人が声をあげる
3)見つかった歴史的建造物を保存していくためのしくみづくり
といったことが必要ではないかとするまとめを行い、閉会しました。
和歌山市支部 明石和也