濱口家住宅Ⅰ<本宅・本座敷・三階建座敷>

 濱口家住宅 <本宅・本座敷・三階建座敷>

湯浅4

■ 所在地   有田郡広川町広(仲町)
■ 本宅    木造厨子2階建 1707年竣工
■ 本座敷   木造平屋建   1820年竣工
■ 三階建座敷 木造3階建   1908年竣工

濱口家(通称東濱口家)は古く、江戸において「広屋」として醤油問屋を営んだ豪商である。この住宅の敷地には主に3つの建物とそれらを囲むように広い庭で構成される。一番古い本宅が建造されたのが宝永4年(約300年前)。それから時を経て増築がなされ現在の姿に至る。一部レンガで覆われたた邸宅は流れた時間を物語るように静かに佇んでいた。

本宅は本瓦葺き屋根、間口5間、奥行4間、1間半の土間を備えたつし二階建ての木造住宅である。正面の通りに面した掃出しには格子が備えられいわゆる町家の形式をとっている。本座敷は本瓦葺き、入母屋で門と玄関を備え茶室・仏間・座敷の3つが直列する平面構成をとっている。町家造りの本宅とは対照的に様々な意匠が施され、江戸後期の東濱口家の財力と地位を表すものとなっている。主に冠婚葬祭や接客に用いられた。3つの建物で一番最後(明治末期)に建造されたのが木造3階建ての座敷である。こちらも主に接客を意図して建造された。当時の日本政府の財界人や海外の客人をもてなした事でも知られる。2階の座敷か湯浅2ら庭へ直接アプローチできる点は非常に珍しい。また、3階の座敷では欧米人に対応するため椅子とテーブルを配置する事を前提にあえて高い天井がとられている。

300年にも及ぶ大屋敷である。いずれの部屋、庭を訪れても息を呑んでしまうような空間体験をする。中でも庭と建物の関係がすばらしい。本座敷の一番奥にある書院座敷から覘く庭の情景は縁(えん)を介して互いに呼応する。灯籠や飛び石に目を配ればつい外へ飛び出したくなり、深い庇からのぞく付け書院、違い棚は実に美しい。つまり隔たりがないのである。これを特徴づけるのが3階建座敷の2階座敷と庭の関係である。座敷へと伸びる岩山をつたうことで庭から座敷へ、座敷から庭へと直接行来ができる。眼下に広がる庭には池へと伸びる小川が流れる。この小川は玄関入ってすぐ正面にある坪庭を介して楽しむことができる。
湯浅1
このように自然<庭>と人工物<建築>が見事に呼応しているのがこの住宅の特徴の一つであると考えられる。これらの情景は、この場所を訪れたいずれの時代の客人達も我々同様に感動したであろうと考えられる。実に美しい住宅であった。並びに、この住宅の周辺整備もすばらしいことに触れておきたい。邸宅の周辺の道はきれいに舗装され町並みを損じる事なくきれいに整備されている。こうやって地域全体で歴史的な町並みを意識し、実践に移すという行為に深く関心させられた。

 【会報誌きのくにH23年6月号掲載】湯浅3

   情報・出版委員 東端秀典

 

 

 

 

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