琴ノ浦・温山荘園(建築)

琴ノ浦・温山荘園<建築>

■主屋  構造・規模:瓦葺屋根 木造平屋建(地階有) 建築面積422
建築年:大正5年(1916)

■茶室  構造・規模:茅葺及び瓦葺入母屋屋根 木造平屋建 建築面積74
■建築年:大正5年(1916)

■浜座敷 構造・規模:本瓦葺屋根木造平屋建 建築面積98
■建築年:大正2(1913)

 

琴ノ浦・温山荘園(庭園)は温山荘園の庭園に焦点を当てましたが、今回は建築についての記事です。温山荘園内には主に3つの建物が存在します。園内の中央に位置する「主屋」、敷地東方に池を臨んで建つ「茶室」、敷地南端に位置する「浜座敷」。これらの建物が庭園の景観に彩りを加え、また建物内部からは庭園や周辺の豊かな自然を楽しめるよう巧みに配置されています。

 

12321主屋:愛媛県庁舎などを設計し、大正~昭和初期にかけて活躍した建築家、木子七郎(きごしちろう)による設計。入母屋と寄棟の屋根を並べ、和風ながらも近代的でモダンな印象。平面的には接客用の主座敷部と居住用の内玄関部を南北に接続した構成であり、主座敷は24畳の広間に天井高10.5尺、内法高6尺と高く、東西の庭園を鑑賞するために開放的な室内空間となっています。主座敷の東側に6帖座敷を二間備え、その境には「波と兎図」の木彫欄間があります。欄間は高村光雲に師事した相原雲楽の作で、力強く雄大な印象を室内に与えています。また地階を兼ねた基礎はRC造であり先進的な技術が実践されています。

 

茶室:設計は造園を指導した武者小路千家の木津宗泉の指導と伝えられ、茅葺屋根の四方に桟瓦の庇を持ち、田舎屋風の愉しげな姿が目を引きます。9畳茶室の周りに畳敷の入側を設け、庭の景色を奥行き深く切り取ります。前号の表紙はこの茶室を池越しに撮影したもので庭園の緑、借景の山との調和がひときわ印象的でした。

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浜座敷:3つの建物の内で最も古く建設された。小さな山を背にした斜面地に建ち、縁束をのばして懸造風(かけづくり-傾斜地や段状の敷地,あるいは池などへ張り出して建てること)の建物になっています。L字型平面を持つ平屋建で、内部には床、棚を備えた十畳の座敷を設え、外周部の戸を開放し黒江湾を一望できるようになっています。現在は一般の入場はできず、また周辺の雰囲気も様変わりしてしまったのでしょうが、当時はこの部屋に居る事自体が最高の贅沢だったのでは無いでしょうか。

 

この他にも来客の伴人の待合室である伴待部屋、庭に夏の涼しい風を取り入れるため掘られたというトンネル、数奇屋風の冠木門、などなど温山荘園には数多くの見所があります。また先の3つの建物は平成22年6月に重要文化財に指定され、今後も更に歴史的価値を高めていくのではないかと思われます。和歌山市内からも程近い温山荘園は洗練された近5浜座敷外観 6浜座敷内観代和風意匠の宝庫のような場所でした。

     

温山荘図面[PDF]

【会報誌きのくにH24年9月号掲載】

情報・出版委員 南方一晃

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