くどやま森の童話館(旧久保小学校)
くどやま森の童話館(旧久保小学校)
【建築主】九度山町
【設計・監理】株式会社 田渕建築設計事務所
【施工】
建築工事 株式会社 桝田組
電気設備 モリ電気
【構造】木造平屋建 日本瓦葺
【敷地面積】1,750.17㎡
【建築面積】172.92㎡
【延床面積】172.92㎡
ここは、世界遺産「黒河(ころこ)道(みち)」高野山への参詣道です。
高野山への参詣道として最も有名なのが町石道、そして最も簡単なのが京大坂道。(前年の8月号にて紹介)
しかし忘れてはいけないのが、2016年に世界文化遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部に追加登録された黒河道です。黒河道は橋本から南にほぼ一直線に高野山に向かうルートで1594年に秀吉がこの道を使って高野山を降りたという記録もあり、古くから巡礼道として使われてきた道です。
その中間地点には、いくつかの集落があり、周辺集落の生活道や物資輸送路としても重要な役割を果たしてきました。林業はもちろんのことながら、久保鉱山も存在し、歴史街道としての賑わいもありました。
当時、お寺の薬師堂を仮校舎として教育がなされていた経緯もあり、1878年(明治9年)9月に久保小学校が創立されました。大正10年頃のピーク時には120人程度の児童が居たそうですが、集落の過疎も進み、平成18年3月最後の1人の児童が卒業するまで運営されておりました。途中、火災にも遭い現存の校舎となり20年が経過します。
この旧久保小学校を、『くどやま森の童話館』とし、黒河道の中間地点の休憩所として活用されています。
まず木造校舎の教室1を童話・絵本コーナーとし、子供たちに人気で、長く読み継がれてきている絵本や童話を中心に1000冊以上揃えられています。教室2を多目的ルームとし、読み聞かせやミニコンサートも可能な空間としています。そして、保健室は植物・昆虫図鑑と真言密教専門書コーナーとし、高野山系の山や森に生息する小動物や昆虫・植物などの図鑑や真言密教の宗教的な書物も揃えられています。また、校庭には豊かな森であるため和歌山県指定の準絶滅危惧種のモリアオガエルも生息しています。
再建された木造校舎は、木造平屋瓦葺き。旧校舎と同規模でメインの教室が2室あり職員室・保健室・給湯室が備わっています。玄関は格式ある妻入りの厳格な構造。雰囲気のある外壁は下見板張と漆喰塗。柱は5寸角桧材で桧床板張り、天井は杉板張り。建具はアルミ製ではなく桧製シングルガラス杉板張り。木製本棚で椅子やテーブルも、もちろん桧製で、紀州材がしっかり活用されている建築です。純粋な木造建築であるため、非常に趣があります。
旧久保小学校は、大火に見舞われましたが、玄関の一部と離れだけが燃えずに残りました。
その場所は、クラシック音楽を中心としたアナログレコードのリスニングルームに改修されています。
長野県の医師による寄贈の貴重なクラシック音楽のコレクションやフォークソングのレコードが1000枚以上保管されています。豊かな自然を満喫しながら、離れのリスニングルームにて貴重なアナログ名盤を聴いてみてはいかがでしょうか。日常の雑念から、心身を癒す有意義な時間となります。
旧久保小学校 『くどやま森の童話館』
〒648-0262 和歌山県伊都郡 九度山町北又379番地
久保鉱山…明治期に山林の所有者が鉱脈を発見。鉱夫の親方が所有したのち、明治末に大阪の鉱業会社へ譲渡、事業拡大。鉱石は索道で野平の上空を通って、河根道の赤瀬の上(かみ)まで出し、そこから牛車で高野口駅に運んでいた。鉱塊の3分の2ほど掘ったとき、地下水が溜まって作業ができなくなり操業停止。(町史より抜萃・改変)
【会報誌きのくにR5年10月号掲載】
情報・出版委員 辻本貴教