湯浅町庁舎
【設計監理】株式会社 岡本設計
【工事施工】株式会社 中井組
【建物構造】鉄骨造 3階建
【敷地面積】9,219㎡
【延床面積】4,259㎡
【竣 工】平成27年3月24日
今回は湯浅町庁舎をご紹介いたします。旧湯浅町庁舎は昭和36年からJR湯浅駅前の町の中心街に位置していました。しかし平成22年度に実施した耐震調査の結果、庁舎の一部に耐震性能が確保されていない事が判明したほか、津波被害への懸念、建物のバリアフリー化が出来ていない等、“町民のための庁舎”としての機能が十分に果たされていない状況でありました。それらの問題を踏まえて高台への新庁舎移転が計画され、旧庁舎落成から53年後の平成27年に旧庁舎から東に約1.2㎞・海抜20mを超えた現在の地に、新湯浅町庁舎が完成しました。
新庁舎は旧庁舎での諸問題を解消すると共に、町民サービスの向上を図っています。また巨大地震発生時には、防災拠点としての役割を十分果たす為の機能を備えた造りになっています。建物は東西に約57m、地上鉄骨3階建、北面と南面が全面ガラス窓に覆われ、直線的でスマートなデザインが山の緑に映えます。
斜面を利用した地下には雨水貯水槽を備え、溜まった雨水はトイレ流水に利用されています。1階・2階には執務室に保健センターや災害対策室、3階には議場・なぎホール等が設けられています。庁舎には陽の光が燦々と差し込み、執務室は大変明るく訪れた町民を温かく迎えてくれます。また屋上には太陽光発電パネルも設置され、防災自家発電の一端を担っています。
3階の『なぎホール』は、町木の『ナギノキ』にちなんで命名されています。年4回の定例議会で議場として使用されるほか、普段は町民憩いのホールとして講演会や映画鑑賞会等の住民活動に利用され、一般の貸出しも可能です。また約437㎡のホールは、災害時に最大400名を収容する避難所としての役割も担っています。ここには電動可動式のステージと、同じく電動可動式の客席(2パターンの配列・最大144席)が設けられています。議会準備の際には町職員が議員席の机や椅子を手運びし、それぞれセッティングするそうですが、傍聴席はボタン一つで椅子が迫り出し定位置に設置されます。ホールに幾つもの役割を持たせ、町民が親しみやすい庁舎となるよう工夫をされていると感じました。3階ロビーや中廊下にも直接太陽光が採り入れられ、全館大変明るい庁舎です。また竣工同年に開催された『2015紀の国わかやま国体』の総合開会式に御臨席された天皇皇后両陛下(現、上皇上皇后両陛下)が、御休憩のために同庁を利用されたそうで、その際に両陛下がご使用になったソファーも大切に保管されていました。
『町民を守るための安心・安全』に重きを置いた計画により、利便性の良かった地区からの移転で「不便になった」という町民からの声にも応え、湯浅庁舎を経由するバスルートを新たに設ける等、町民に寄り添った運営が、同時に誰もが使いやすい『町民に親しまれる庁舎』となり、今後も発展しながら町民を守ってくれる事と思います。
【会報誌きのくにR5年12月号掲載】
情報・出版委員 西 祐代