南方熊楠記念館 新館
建物概要 新館(増築部分)
■構 造 鉄筋コンクリート造 2階建て
■建築面積 374.98㎡
■延床面積 555.48㎡
■建築主 公益財団法人 南方熊楠記念館
■設 計 (株)シーラカンスアンドアソシエイツ一級建築士事務所
■施 工 東宝建設株式会社
2017年(平成29年)3月にオープンした『南方熊楠記念館 新館』をご紹介します。
南方熊楠(1867-1941)は、博物学・植物学・民俗学などの分野で生涯を研究に没頭し、田辺湾の神島(国指定天然記念物)をはじめ、地域の自然保護にも力を注いだエコロジーの先駆者としても有名な和歌山県が生んだ世界的な在野の学者です。
南方熊楠記念館の新館建設のきっかけは、1965年(昭和40年)に開館した本館の老朽化への対応や地震対策に加え、平成27年度から始まった開館50周年、熊楠没後75周年、生誕150周年事業などが好機となったようです。
敷地は、吉野熊野国立公園内の番所山公園山頂にあり、本館に寄り添う形で鬱蒼とした森の木々と調和するように建っています。
平面は、1階を半屋外のピロティ空間とすることで本館への車両動線を残しつつ、樹木などの自然環境を建物内部(ピロティ内のガラスで囲まれたエントランス)へ引き寄せるような計画としたそうです。
また、本館と御製碑との間の限られた建築範囲の中で、必要な展示面積を確保するため常設展示室は2階に計画されています。無理のない構造で2階面積を確保するために、片持ち式キャンチや杭基礎工法は避け、周辺の緑の縁をなぞるように有機的な平面形状としたそうです。
この曲線の外壁は敷地内の伐採樹木を最小限にとどめつつ、建物のエッジをぼかし自然に溶け込ませる効果があり、また、熊楠が研究した粘菌をイメージしたものでもあるそうです。
1階はガラス張りのピロティで視線が抜けるため、2階の白く曲線を描いた外観は森の中に浮かぶ雲のようにも見えました。エントランスには、屋上から繋がる円筒状の吹抜けがあり自然光を階下に呼び込み木漏れ日のような雰囲気を感じました。
2階の展示室手前にあるホールには、熊楠が南方植物研究所設立の資金集めで作成した履歴書が展示されています。この履歴書は8m近くあり館内案内によると世界一長い履歴書と紹介されていました。履歴書展示の左方向へ進むと渡り廊下で本館へアプローチすることができます。
屋上へ上ると展望デッキがあり、紀南の山(世界遺産の熊野の山々)や海(紀伊水道)を360度眺めることができます。熊楠が半生を過ごした田辺の風景も一望することができます。
この南方熊楠記念館 新館は、第3回きのくに建築賞(2018年)できのくに建築大賞と和歌山県知事賞を受賞しました。以前のきのくに会報に掲載されていた審査評では、「建築の計画や構成、構造などが明快で、閉ざされた展示室と開かれたロビーや屋上とのバランスが良い。さらに、旧館とも無理なく一体化されている。」と評されていました。
個性のある建物ですが、景観を損ねることなく番所山の木々と調和しているように感じます。また、新館と本館それぞれの個性や特徴も共存している印象を受けました。訪れる人々をわくわくさせてくれる魅力的な建物で、南紀白浜の新しい見所の一つではないでしょうか。
【会報誌きのくにR4年10月号掲載】
情報・出版委員 中島大介