南方熊楠顕彰館
南方熊楠顕彰館
建物概要
建 築 主 田辺市
設計・監理 株式会社インテグレ-ティッド デザイン アソシエイツ
施 工 建築工事 株式会社テンコーライフ
電気設備 辻田電設
機械設備工事 武井工業所
構 造 木造、一部鉄筋コンクリート造 地上2階建て
建築面積 521.89㎡
延床面積 733.04㎡(1階:483.29㎡、2階:249.75㎡)
2006年(平成18年)5月に開館した『南方熊楠顕彰館』をご紹介します。
『南方熊楠顕彰館』は、和歌山を代表する偉人で世界を駆けた近代日本の博物学者 南方熊楠(1867-1941)が後半生を過ごした南方熊楠邸(田辺市)の隣に建設されました。南方熊楠邸に遺された蔵書・資料を恒久的に保存することと熊楠翁に関する研究とその成果の情報発信を目的としています。
2000年(平成12年)に熊楠翁の長女、南方文枝氏の逝去により南方邸と邸内資料が田辺市に遺贈されたそうです。それが契機となりのちに南方熊楠研究所(仮称)建設委員会が設置され設計提案競技による審査によって設計者が選定されました。提案図書の受付は591件あったそうで、このプロジェクトが当時注目を集めていたことが伺えます。
敷地は南北軸に長く全体の配置として南側に大きな庭があり敷地中央には南方邸、緑地帯を挟み北側に顕彰館が建っています。顕彰館の玄関ホールは建物南側に配置され、複数の杉の丸太柱が屋根を支え広々とした吹抜け空間になっています。展示スペースや階段を内包した作りとなっており、1階学習室や2階の利用者ゾーンのほぼ全体を玄関ホールから視野にいれることがでます。吹抜けに面した2階閲覧スペースには階段とエレベーターにてアクセスできます。当時の新技術として採用された木造の格子壁は耐力壁として建物の安全性を高めつつ、格子状とすることで内部空間の広がりを演出しているそうです。更に南側の南方邸に面した外壁はこの格子壁と透明ガラスを組み合わせることで、緑地帯の植栽を眺めつつ外部空間との繋がりを感じることができます。この格子壁は貫壁工法を用いており、ほぞ・くさびなど伝統工法の意匠性を感じられます。主要な柱や梁などの構造材は現しとなっていて紀州材の質感を来館者が体感することもできます。
建物北側は1階に鉄筋コンクリート造で作られた資料保存のための収蔵庫があり、2階には管理室や研究室が設けられています。
設計提案競技の際には、室内のどこからでも内部空間全体を、更には南方邸の外部空間全体をも見渡せると言う連続的な広がりが高い評価を受けた最大のポイントだったそうです。
来館者は例年約8,000人あったそうですが、新型コロナウィルスの流行により来館者数が減少したものの昨年は6,000人程まで回復してきたそうです。
昨年の南方熊楠記念館に続き今回も担当させていただきましたが、南方熊楠と言う偉人の残した功績の大きさを改めて感じました。田辺市街地には昔の街並みの名残りを感じられる場所もあります。そんなノスタルジックな市街地のまち歩きを楽しみつつ南方熊楠顕彰館と南方熊楠邸にも足を運んでみてはいかがしょうか。
【会報誌きのくにR5年8月号掲載】
情報・出版委員 中島大介