和歌山地方気象台庁舎

和歌山地方気象台庁舎

建物概要

設計     近畿地方建設局営繕部

工法・規模  RC造 2階+PH階

延床面積    722.37㎡

竣工     昭和44年

 

今回は和歌山市男野芝丁に位置する和歌山地方気象台に行ってきました。和歌山地方気象台は1879年(明治12年)和歌山県立の和歌山測候所として現在地に設立。 1939年(昭和14年)に国営に移管され、1957年(昭和32年)には和歌山地方気象台と改称。1969年(昭和44年)現庁舎が完成します。

まず目をひくのは駐車場入口にある斜めの構造物です。近くに立つとまるで小さな山のような重量感のある壁ですが「和歌山地方気象台」の文字プレートは非常に小ぶりで余白の中に静かな佇まいを見せます。図面を見せていただくと長辺方向が8m・4m・8mの3スパン、短辺方向は8m・8mの2スパン。合理的かつ簡潔な平面計画を構成しています。エントランスは長辺方向の真中に位置し、中廊下が建物の中心を貫き、建物がシンメトリーであることを感じさせてくれます。その廊下より裏庭へまわると2階中央から伸びる直進階段が、建物を持ち上げたような軽やかな印象を与えます。外観に目を向けると2階は壁が柱より跳ね出され、水平連続窓が途切れること無くリズミカルに続きます。庇は2階壁よりさらに出が大きく、建物の周囲を覆い、中空に力強い水平のラインを描きます。この建物は端正な印象の中にも空間の確かな構成力が感じられ、モダニズム建築の要素が散りばめられているように思えました。

日常の仕事内容についても取材させていただきました。日々の天気予報、24時間体制の気象観測等(雨量、風向風速、日照、気温、震度、潮位、津波)、気象警報・注意報の発表などが主な業務ですが、近年は防災知識の普及にも力を入れているそうです。例えば「大雨ワークショップ」の開催。山、川の近い地域で大雨警報が発令されたという想定で、そこに住む家族が土砂や浸水の危険に対しどのような行動をとるか?そういった事を多人数でシミュレーションするそうです。そして防災知識を持ったリーダーを育て、より多くの人に防災知識が行き渡るようにしていきたい、というお話も伺いました。

また館内には以前使用していた計測機器が展示されていました。毛髪の伸縮を利用した湿度計や、シシオドシのような仕組みの雨量計など。アナログなものですが測定結果はとても正確との事です。現在計測機器はコンピューターと連動し、気象データはリアルタイムで観測されます。和歌山地方気象台は1879年からの137年間、同じ場所で気象観測を続けています。周辺環境の変化はありますがこのように長い間、ほぼ変わらない気象条件で観測できている場所は全国でも少ないようです。本建物は平成18年に耐震補強も施されました。137年間の気象データに加え、まだまだ今後もこの地にてデータが積み重ねられていくことでしょう。そのデータの蓄積や分析、気象台の方々の経験と判断が人々の生活を支え、私達を自然災害から未然に守ってくれている。取材を通してそんな事を実感しました。

最後に、気象台の業務として生物気候観測というものがあります。この「きのくに」が発刊される頃にはおそらく桜の開花情報も気象台から発表され、ようやく気候の良い季節の到来です。しかしこの時期の花冷え、体調を崩しやすい季節でもあります。まだまだ週間天気予報から目が離せそうもありません。

【会報誌きのくにH28年4月号掲載】

 【会報紙きのくにH28年5月号掲載】

情報・出版委員会 南方一晃

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