和歌山市民会館
和歌山市民会館
■昭和54年(1979年)竣工
■構造 本館 RC造(一部鉄骨造)地上4階・地下1階建
■建築面積 8,069㎡
■設計:株式会社 日建設計
■施工:飛島建設株式会社
わかやま公共建築、今回は和歌山市民会館を特集致します。南海和歌山市駅の西側に位置し、市立博物館・市立図書館と並んで紀ノ川を望む市堀川に沿って立地します。
前面道路から少し持ち上げられた2階部分をメインエントランスとし、天井高のあるホワイエは象徴的な照明を中心にシンメトリーに柱が配置され大空間を彷彿させる装いとなっています。竣工から40年、大小二つのホールではこれまで様々な催しが開催されてきました。プロのミュージシャンから地元中学校の吹奏楽部までいろんな人に愛されたホールは木質のインテリアで統一され音の環境も良く演奏者などには非常に好評であるとのことです。
建物の特徴の一つはスロープが挙げられると思います。敷地内の高低差を解消するため建物の内外にスロープが配置され、いずれのスロープもきちんとデザインされていて建物の空間に呼応しています。ホワイエ部分の家具などは恐らく同じ設計者によって考えられたものであろうと思います。ソファーやチケットブースいずれも統一感があり独特の風情を浮き出しています。
もう一つの特徴はいずれのフロアの外周にもテラスがあることです。外周をテラスで囲む効果は大きく、外部と建物間のレイヤーとして庇や外部階段など建築的機能を含みつつ、外観を印象づける水平ラインが取り巻くことで建物の高さ方向への印象を抑え、地方都市におけるヴォリュームコントロールのいい実例であると思います。またこの水平方向への意識に対峙するように縦長の磁器質タイルによって外観が覆われているのも特徴的です。3階部分では屋上庭園との相乗効果で広がりを体感でき、最上階の練習室でも思わず風を感じるテラスに出たくなるような、そんな雰囲気がありました。このテラスへは外部から直接アプローチできる階段があり市堀川沿いに豊かな庭園が想定されていることがよく分かります。ガラス張りの外壁に庇だけが出ているような建築が多い昨今、対照的な建物であり、非常に力強く感じました。
図面を見ると、特異な敷地に立地することが直ぐに分かります。エビのように川に沿って形取られた台形敷地でこの規模の建物を計画することは容易ではなかったことと推測されます。よって、この建物に入った時に感じる広がりや明るさ、緻密に計算され尽くしたホールとしての機能を支えるバックヤードなどは改めて感服します。二つのホールがきちんと成立している点もなおさらです。
緑地広場と名付けられたエントランス前にある広場の木々は大きく茂り、前面道路の北大通りの緑と一体となってこの周辺独特の豊かな雰囲気を演出しています。築40年を経て、当初描かれた理想はそのまま形となって今もなお市民に愛されています。4階の練習室からは情緒的に紀ノ川に沈む夕日を眺め、向かいのテラスから堂々とそびえる和歌山城を望むことができます。市民が誇れるこの建築を、そしてこの建築で育まれた様々な文化。これらこそ宝だと思いました。
【会報誌きのくにH29年9月号掲載】
情報・出版委員 東端秀典