和歌山市民図書館
和歌山市民図書館
【建物概要】
■所 在 地 和歌山市屏風丁17番地
■設 計 監 理 株式会社アール・アイ・エー大阪支社
■施 工 竹中工務店・南海辰村建設・淺川組建設工事共同企業体
■指定管理者 カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社
和歌山市の市街地再開発事業として、南海和歌山市駅前に「キーノ和歌山」が今年6月にオープンした(本誌8月号掲載)。
この再開発ビルに隣接するのが和歌山市民図書館だ。旧図書館の老朽化、中心市街地活性化の課題解決のため、再開発区域内に移転することとなった。
図書館が駅にあることで、利用時間帯や休館日はこれまでと同じで良いのか等、運営面で様々な検討が行われたようだ。
これまでの本を借りる・返すというだけの図書館ではなく、親子連れや学生、ビジネス支援の場としても幅広く活用でき
るようにと、図書館の役割を時代に合わせて変化させた狙いがある。
駅側からのアプローチは1階のカフェ側と2階の連絡通路(駐車場利用)の2か所あり、キーノの専門店街からも気軽に立ち寄れることから親しみが持てる。
EVでR階まで上がれば屋上テラスに直通し、北西に紀ノ川や自然豊かな景色を、南東に和歌山城や市街地を一望することができる。
屋上テラスには、キッチンやテーブルセットが設置されていて、本を読んだり、食事をしたりと、利用者が自由に過ごせる場となっている。中央の芝生広場では様々なイベントが行
われ親子連れで賑わっているようだ。機械室の壁を利用した壁面アートは和歌山市出身のイラストレーターが、ワークショップで子供たちと描いたものだそうだ。
4階の「こどもとしょかん」は、屋上テラスと繋がる吹抜に階段状の立体的な本棚があり、劇場のようになっている。子供の目線で本を配置し、読み聞かせイベントなど親子で楽しめる場所を想定している。
子育て支援スペース、イートインスペースも併設されており、プレイスペースには子供を見守るようにカウンターや椅子が配置され、利用する親子目線で計画されていた。こうした場所があることで子供だけでなく、親同士のコミュニケーションも深まっているそうだ。
3階は専門、学術のフロアーで、この中で目を引くのは「移民資料室」だ。資料室として国内に開設されているのはここのみで、研究者も閲覧に訪れる全国的にも貴重な資料が保管されている。昔から海路の栄えた和歌山だが、海外を目指し移民した先人も多く、その歴史を知ることができる。
2階はカジュアルな雰囲気で暮らしに関する書籍を中心とし、有吉佐和子文庫、多目的ルームがあり、様々な図書館事業も行われている。
1Fの書店&カフェの吹抜けに見える中2階のキャットウォークと本棚は閉架図書を見える化したもので、この本棚の裏側は市営駐輪場となっている。
インテリア、照明計画、家具やソファーの選択は、各フロアーや各コーナーのコンセプトに合わせた読書空間の異なる質を演出しており、いかに人が集まり、居心地のよい場所を提供できるか、工夫を凝らしているように感じた。また各階の床には紀州材が用いられていた。今後利用者がさらに増え、地域で愛される和歌山市らしい図書館に成長してほしいと期待している。
【会報誌きのくにR2年12月号掲載】
情報・出版委員 笠木和子