和歌山県立自然博物館

和歌山県立自然博物館

建物概要

設計監理  環境設計事務所 (展示設計 乃村工藝舎)

構造    RC造 地上2階地下1階建て

建築面積  1,467㎡  延床面積  2,613㎡

竣工年   昭和56年

 

 海南市にある県立自然博物館です。建物の半分が海にせり出した建物は7.5mスパンを基本とし、中央付近の柱を1本とばして大水槽を設置しています。その周囲を囲う形で展示スペースが設けられ、一筆書きのような合理的な動線になっています。

館内に入ると「黒潮の海」と書かれた水量450t、ガラス幅15mの大水槽が現れます。竣工当時東アジア一大きな水槽だったというこの水槽にはエイやロウニンアジなどの魚が所狭しと泳いでます。職員の方曰く30歳前後の魚がおり、元々手のひらサイズだったのが50~60kgまで巨大化しているそうです。私の子供時代と私の子供が同じ魚を見ていると思うと何だか感慨深い気持ちになります。通路を進むと「和歌山の海・魚と棲家」「和歌山の川や池・森」「和歌山の昆虫」「和歌山の化石」「和歌山の鉱物」etc..とバリエーション豊かな展示が目を惹きます。途中タコの卵が孵化し始めている様子にも遭遇しました。こういった珍しい場面に遭遇するのも自然博物館ならではです。そして取材時の展示の目玉は平成18年に有田川町で発見されたという世界的にも貴重な恐竜モササウルスの化石です。化石のクリーニングルームを再現した展示も行われており、太古の生物が復元される臨場感が味わえる内容でした。

 学芸員さん同行のもとバックヤードも案内していただきました。濾過水や海水、淡水の配管が各水槽に繋がっています。大水槽の上部には魚の餌があったり水槽掃除の時に使うウェットスーツが干してあったりといかにも”現場”という雰囲気が漂います。こちらは年に数回バックヤードツアーを催しており一般の方も見れる機会があるそうです。標本室にはあらゆる和歌山の魚、植物、虫の標本がありました。興味深い話としては標本に貼る「ラベル」が重要だということ。標本は和歌山でどのような生き物が生息しているか、または生存していたかということの資料になり、ラベルが劣化して読めなくなっては標本の価値がグッと下がってしまうそうです。長い年月の間ではデジタルデータよりも耐久性の高い紙か布が一番信用できるとの事。学問というのは過去から未来へとしっかりと繋いでいくもの、という高い意識が感じられました。そして見せていただいた昭和57年度の館報第1号にはこう書かれていました。

 趣旨:国際児童年の記念事業としての「子ども博物館」について、かねてから建設構想の検討を進めてきたが、今回、子供たちが自然の姿に接し、学習する場として、美しく豊かな紀州の自然を取り入れた博物館としての機能を中心とする「自然博物館」とすることとした。

私自身も間違いなく子供の頃この場所で「和歌山の自然」に触れ、何かを学びました。そして今も多くの子供が訪れています。自然の奥行き深さを感じることのできるこの自然博物館、これからも末長く存続して欲しいと思いました。

【会報誌きのくにH27年3月号掲載】

 情報・出版委員会 南方一晃

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