旧栖原家住宅-フジイチー(前回の続き)
旧栖原家住宅受注経緯・業務報告
和歌山県ではどこの地域でも多くの文化財的建物があって、それぞれ誇りにして大切にされていると思います。有田支部にも誇りにしている建物が沢山ありますが、中でも伝統的建造物群保存地区に指定された湯浅町を自分たちの地域に持っていることは大きな誇りです。
令和2年6月、建築士会事務局からヘリテージマネージャー終了生を対象に『旧栖原家住宅(土蔵)2期改修工事監理業務 委託の件について』というタイトルの文書が発行されました。概ね3人程度のヘリテージマネージャーで、監理業務を請け負うことを希望するチームを募集するもので、複数のチームから希望があった場合はプレゼンの内容で選考するとのことでした。
地元でこのような案件が出たのだから有田支部の中からも1チームはエントリーしたいよねと、嶋田和人さん、松井美香さんとの3名のチームをつくり、他にも手を上げたチームがあって2チームでの選考予定でした。監理業務を請け負うことに対してプレゼンすることの理解が難しかったのですが、私達のチームは改めて湯浅町の伝統的建造物群保存地区を理解し直す目的で、湯浅町の観光客数や観光客実態調査などの公開されている数値資料の分析以上に3人で周辺を沢山歩いたことで得た感覚を大切にすることを方針としました。栖原家住宅の活用を提案するのであれば、地域の人達の日常を感じてもらえる場をつくることが大切だろうと、たまたま耳にした地域のおばちゃんの会話「うちの庭のびわ毎年よぉなら~」をタイトルにしたプレゼンボードを作成しました。
結末はもう1つのチームが辞退されて、私達のチームだけがプレゼンして、選考されるということになりましたが。
そんな経緯で私達が担当させていただくことになった『旧栖原家住宅(土蔵)2期改修工事監理業務』ですが、その後第3期工事としての主屋棟の内装工事の監理業務もさせていただくことになり、さらに、便益棟を含む西側敷地の整備工事を設計監理として担当させていただいたことで、思ってもいなかった令和4年9月まで丸2年あまりの旧栖原家住宅とのお付き合いになりました。
2期工事の土蔵と文庫蔵に私達が参加した時点で、躯体と屋根、外壁の一部までの工事が進んでおり、図面よりも現場での打ち合わせ内容を優先したい湯浅町からの意向もあったので、この建物の元々の形はどうであったかなどの推測検討をしながら工事内容を打ち合わせで決定していく作業で、このことは第3期工事の主屋棟内装工事まで続いて、色々な摩擦の原因にもなりましたが、時間が経った今となっては良い経験であり、面白い経験にもなった気がします。また、主屋棟の土間では自分達で三和土の施工をしてみようという企画も京都大学や建築士会の皆様のご参加を頂いて良い体験でした。さらに令和3年から始まった便益棟を含む敷地西側の整備工事では、主屋棟内装工事から参加の鈴木史郎さんを中心に図面を作成し、敷地整備工事ではチーム皆での設計監理業務をさせていただきました。
そのような経緯で出来上がった旧栖原家住宅は先月の『きのくに』誌上で紹介されたとおりです。これからは地域の方たちに大きく育てていただけることを願っています。
【会報誌きのくにR5年4月号掲載】
有田支部長 上野山和男