有田市消防庁舎
わかやまの公共建築 3月号
有田市消防庁舎
■構造・規模 鉄筋コンクリート造 5階建て
■建築面積 908.71㎡
■延床面積 3,046.42㎡
■設計監理 株式会社 川建築事務所
■施工 三友・三谷特定建設工事共同企業体
今回は有田市にある『有田市消防庁舎』を紹介します。敷地は有田川の堤防沿いにあります。堤防レベルが2階となっており、メインエントランス及び消防車両の駐車場があります。外壁はコンクリート打ち放し、4階と5階にはベランダがあり、その正面には、アルミ製のエキスパンドメタルが張られています。太陽の光がエキスパンドメタルに反射することで、建物の姿が刻一刻と変化していくのが印象的です。
かつてこの場所には、和歌山県の著名な建築家、富松助六氏による設計の、有田市民会館がありました。老朽化により取り壊されてしまいましたが、隣接する有田市役所も同氏による設計であり、今もなお、その素晴らしいデザイン・空間は当時のままです。偉大な建築家の作品に寄り添うように、消防庁舎はデザインされています。外壁のコンクリート打ち放し、深い軒とベランダ、大きな開口部。それらのデザインの要素が多く取り込まれています。建物の高さや床レベルも、市役所の高さに対して設計されています。有田川の対岸から二つの建物を見ると、古い建物と新しい建物でありながら、違和感のない空間が表現されています。
エントランスを入ると、トップライトから光の差し込む、吹き抜けの階段ホール。誘われるように階段を上ると、4階の事務室にたどり着きます。躯体が白くペイントされた空間は力強く、天井も高く開放的です。南側は大きな開口部で、ベランダのエキスパンドメタルを通して、有田川の南対岸を一望できます。5階は多目的ホールとなっており、4階同様に大きな開口からは、周囲の風景を見ることができます。このように大きな開口部を取ることで、火災や災害が発生した際、すぐに目視にて状況を把握できるようになっています。夜間に災害が発生した場合は、消防署内から光を発することで、地域の避難目標になることができます。
消防署は閉じた空間である通信指令室や仮眠室、大きな車庫があるため、公共施設においても比較的閉じられた建物が多いように思います。しかし有田市消防庁舎においては、コンクリート打ち放しの外壁で囲われ、エキスパンドメタルで覆われながらも、大きな開口部から室内の様子が溢れ出してきます。既存の素晴らしいデザインの公共建物とデザインを協調し、周囲に開かれた公共施設とすることで、有田市中心市街地の、都市空間のデザインの方向性を示していると感じました。
会報紙きのくにH29年 3月号掲載】
取材 情報・出版委員 佐原光治