東京大学 生産技術研究所 川添研究室 加太分室 地域ラボ

東京大学 生産技術研究所 川添研究室 加太分室 地域ラボ

 

外観

外観

所在地  和歌山県和歌山市加太

構造   木造2階建て(現状は2階床を撤去)

建築年  不詳 築100年程度と考えられる

意匠設計 株式会社空間構想

構造設計 株式会社KAP

設備設計 明治大学樋山研究室

 

紀淡海峡を望み、加太漁港へ延びる県道65号線から東に少し入った場所に、この東京大学加太分室生産技術研究所川添研究室地域ラボは位置する。建物は使用されていなかった漁具倉庫を東京大学の地域拠点として改修したものである。

加太は奈良時代には紀伊国から淡路、四国へ通ずる南海道において賀太駅(かだのえき)が設けられ、後々まで廻船や漁業で栄えた歴史を有する町である。この建物は漁師の漁具倉庫として約100年前に建てられたと言われ、所有者によって修繕を施され美しく保たれてきた。規模は木造梁間2間、桁行4間半の2階建、本瓦葺き切妻屋根。入口のある北面には下屋があり、下屋柱まで控壁が設けられ建物の揺れを軽減する耐震要素になっているように見受けられる。正面の壁は漆喰で仕上げられ、下屋の存在、屋根の本瓦葺きと合わせて豪壮な外観を成している。またこの倉庫を含めた近隣4軒は「しろざえもん」の屋号で呼ばれ、その屋号はおそらくシラス漁を営んでいたことにちなんでいるのではないかと言われている。

その漁具倉庫が改修され東京大学の地域ラボとして2018年6月にオープンされた。改修は外観を大きく変えず、内部から合板や木毛セメント板の使用・添え柱の追加など耐震改修が行われているが、改修部分と既存部分は明確に区別できるよう配慮されている。2階床は撤去され高天井の心地良い空間に生まれ変わり、かつ新旧の素材が露出され過去と現在が混合されたような空間となっている。また温熱環境計画と環境測定が明治大学建築学科樋山研究室によって行われており、より快適な室内環境が目指されている。その一例として床下に空調の空気を流入させ室内温度の均一化を図り、実際2月の厳冬期に訪れた際も足下が暖かく快適であった。

東京大学はこの地域ラボを「知識をローカライズする拠点」と位置づけ、加太の地域活動への参加、近隣小学校への講義、地域情報の収集調査、東京の学生達も交えた地域活性化の提案など様々な活動を行っている。元々加太は海に開かれ、人々の往来した場所であった。そして加太の伝統産業である“漁”の為に長年役割を果たした建物が、最新の研究・文化が往来する場に再生された。古き良き建物を今後どうやって存続させるのか、という社会的課題がある中、この漁具倉庫は現代の技術で改修され、古代からの「交通の駅」に続いてこれからは「情報の駅」として未来指向の役割を担っていくのではないだろうか。

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 【会報誌きのくにH31年3月号掲載】

情報・出版委員長 南方一晃

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