橋本市民病院
橋本市民病院
■設計 昭和設計
■施工 大林組
■竣工 平成16年11月
■構造 鉄筋コンクリート造地下1階、地上6階建
■敷地面積 43,904㎡
■延床面積 23,409㎡
今回の公共建築は橋本にあります、橋本市民病院です。かつては市内の中心部、市役所の西隣に位置していましたが人口の増加や施設の老朽化に伴い現在の小峰台に300床の病床数を構える地域基幹病院として平成16年に誕生しました。
竣工当時、周辺には建物は無く、高台に造成された土地のみ広がる敷地だったそうです。このような敷地環境に対して、病室の環境を最善にすべく南側に広がる紀の川、高野の山々を望むように東西に長く建物を配置し、両端部は雁行させることで室内に2面開口を確保しています。また、空調負荷軽減を考慮したと思われるルーバーは各病室の窓上にルーバーが設置され、日射の調整に一躍を担っています。
病院建築でこの三角形の形を有する建物を見ると建築計画学では有名な聖路加国際病院(東京都中央区)を思い出します。特定街区制度を取り入れたシングルケアユニットで有名な病院建築です。建築計画では三角形の建物の形状に沿ってナースステーションを囲むように病室が配置されています。これらに対して橋本市民病院の三角形のゾーンは吹抜になっており低層部にも光が十分に届くように配慮されています。また広大な敷地では建物と外部の関係もランドスケープによって上手く操作されています。メインのアプローチとなる南面ではバスターミナルが配備され、その周辺は敷地の高低差を利用した公園のような環境になっています。多くの緑が取り入れられ訪れる人たちに安らぎを与える効果を発揮しています。また低層部の外壁は石積みで構築され、有機的な表情を生んでいます。反対側となる北側では広い駐車場を配し、端正の整ったファサードを持ち合わせたエントランスとなっています。
最上階にあるレストランに入らせて頂きました。円形のレストランは180度パノラマ的に広がり、病室と同じく南に面しています。美しい眺望を望みながらこの空間で食事をすることを想像するとここが病院では無いと錯覚を起こすのではないでしょうか。最上階から眼下には雄大な景色が広がりますが、建築にも目が行きます。数棟並ぶ診察棟の屋上は砂利が敷かれており、またレストランのすぐ外は屋上緑化も施されています。こういった仕上げ材をからも眺望への配慮が垣間見られます。
敷地が高台にあり、隣接する敷地には何もない環境です。4面いずれの面もファサードとなり、設計者にとっては大変難しい設計になったのではないかと察します。また、近隣に建物がない環境での設計の手がかりを掴むのも容易ではなかったと察します。これらの問に対し設計者は全体的なスケール感と色彩、素材をうまく融合し全方向ファサードとなる機能的でシンボリックな病院建築が実現したと思います。
新型コロナウィルスの影響で今後病院建築は計画的にも設備的にも変革期を迎えるように思います。しかし、根本的な部分で患者さんや病院を利用される方にとっての安らぎと効率的で無駄のない医療提供の実現は変わることのないテーマとなります。そう言った上で、本建築の持ち合わせるデザイン性や環境は秀逸であると思います。
【会報誌きのくにR5年6月号掲載】
情報・出版委員会 東端秀典