紀の川市生涯学習センター
『紀の川市生涯学習センター』
【建物概要】
面積 敷地面積9,445㎡ 述べ床面積2,713㎡
構造 鉄筋コンクリート造 / 鉄骨造
竣工 2005年
設計 株式会社東畑建築事務所
施工 株式会社淺川組
今回は、紀の川市にある『紀の川市生涯学習センター』を紹介します。場所は、前月に掲載された紀の川市庁舎の西側、海神川を挟んだすぐ隣にあります。この建物は、紀の川市合併前である打田町の時代に生涯学習(人が生涯にわたり学び・学習の活動を続けていくこと)の一環として建設され、当時としては珍しくひとつの建物に複数の機能を持合わせた、施設として誕生しました。施設の構成は、公民館、図書館、音楽スタジオ、陶芸・工作室、展示ギャラリー、学習室、視聴覚・PC教室、親子ふれあいルーム、事務室他となっています。
敷地に入るとすぐに目を引くのが、音楽スタジオが入る巨大オブジェの様なドーム。これは、紀の川市名産のタマネギがモチーフになっているとの事です。私はずっと、ミカンだと思っていましたが・・・。建物の形状は、なだらかな曲線を描いて平面計・配置計画されています。定かではないですが、川の流れをイメージしたのかも知れません。外壁は土壁仕上げになっており、周囲の田んぼの色合いにうまく馴染んでいてコンセプトの良さが伺えます。長く伸びた庇がある玄関から建物に入ると、驚くのが外壁と同じ土壁仕上げの内装。内と外とで繋がりがあり、いい感じで調和されていて何故か安心感が生まれました。床はたたき仕上げで、天井は木毛セメント板。深くとられた軒裏にも同じ材料が使われていて、建物の内と外の一体感が徹底されているようです。
すべての部屋は、中央の展示ギャラリー兼廊下に沿って配置されています。その展示ギャラリー兼廊下にはハイサイド窓が設けられていて、すごく明るいです。展示物に直接日の光が当たらないように設計されています。意外にも建物の要は、この展示ギャラリー兼廊下なのでは無いかと私は思います。それ位、特長的でした。南奥にはタマネギの音楽スタジオ。音響にも配慮してか、八角形になっています。音楽室としてだけでなく、ヨガやピラティス教室にも使われているそうです。北側には一番大きな部屋である図書室。この図書室は、約八万冊の蔵書を有し、市民に限らず誰でも利用することが出来ます。年間三万五千人を超える利用者があるそうです。ここにもハイサイド窓が与えられ、お日様の光を感じながらゆったりと読書を楽しむ事が出来る、いい空間になっています。さらに奥には陶芸・工作室。電動ろくろや電気釜を完備しています。たまには無心になって陶芸を楽しむのもいいかも知れませんね。
この施設は想いの行き届いた建築です。が、ただひとつ残念な所が有ります。それは、建物と川の間のオープンデッキ。ほとんど活用されて無いようです。私ならこんな計画をする!と言いたい所です。が、全体の構想も含めて凄く良い建築なのだから、これで良いのだと思います。デッキを活用するのは難しいかもしれませんが、施設全体としては、管理者様が今後共、上手く運営してくれるだろうと思っています。実際、当センターでは、年間10講座程度を積極的に企画しているそうで、市民の学習や文化活動は勿論、憩いの場としての役割をもった、いい物になっているのですから。これからも、永く市民に愛されていくでしょう。今回の建築も凄くいい!そんな建築でした。
【会報紙きのくにH27年11月号掲載】
情報・出版委員会 中谷 隆志