高野山観光情報センター( i.koya)
高野山観光情報センター( i.koya)
■建物概要 構造:木造2階建
総面積:499.64㎡(1階:369.84㎡、2階:129.80㎡)
■設計監理 海堀正一/KAI’S建築設計
■施工 株式会社 城野組
皆さん、和歌山県の外国人訪問客数は、ご存じでしょうか。2019年統計では和歌山県への外国人訪問者数は340,341人で、全国第23位でした。新型コロナが世界拡大するまでは、インバウンド需要が非常に高まっていた事は当然ご存じであったと思います。
高野山においては、2004年『紀伊山地の霊場と参詣道』として世界遺産に登録されたことは言うまでもなく、ミシュラングリーンガイドの日本版での3つ星を獲得したことを機に認知が拡大し、インバウンドが急増しました。 日本古来のスピリチュアルな世界や文化を体験できる宿坊への宿泊が注目を集めており、特に欧米人観光客に人気なのです。しかし、欧米人観光客は訪日旅行の初心者が多く、その様な方々の誘致を進める為にも、インバウンド観光の整備は急務であり、年々増え続けている外国人観光客のニーズの把握と的確な情報を提供していく事は必須でした。
上記の目的の為に、高野町として観光案内と観光情報を世界発信する拠点となる施設『高野町観光情報センター』を2018年7月にオープンしました。インフォメーションの機能だけでなく、高野町の「観光・文化の発信」を目的とした総合的な施設です。館内は総合案内所の他に高野山の歴史文化を写真や映像で紹介する展示コーナーやガイドマップが置かれている情報収集スペース、交流体験・休憩スペース、ウッドデッキまであります。さらに特筆すべきなのは英語対応スタッフが常駐しJNTO(日本政府観光局)のカテゴリー2認定を受けており、ハイシーズンでは1,000人を超える方々が訪れるグローバルな施設となっています。
さて、本題の建物に触れますが、その前に高野町には景観条例が制定されておりその一部を抜粋し紹介します。
【屋根の形状・素材・色彩】勾配屋根を採用。 屋根の素材は木板葺き、檜皮葺き、和瓦葺き、金属板葺き。
【壁の形状・素材】壁面の形状や配置は、周囲の既存建築物と調和。2階以上の壁は、壁を高く感じさせないように、1階と 2 階の間に庇や持ち出しを設けて出窓素材によって高さを分割。公共空間に面する外壁は、漆喰等の左官材料、木材、瓦、土塗り壁とし、外壁等の基調色は濃灰、茶、燻銀、黒、白とする。
【高さの最高限度】建築物の高さは、地盤面から13m以下。軒高は、地盤面から6.5m以下。
【建具】公共空間に面する開口には、原則として木調又は木製の建具を用いること。
この条例のお手本となる様に、屋根は金属板葺きで軒が深く、壁は漆喰壁、開口部も複層ガラスを入れた格子入りの木製建具を採用。ファサードは、高野山らしい町並みに溶け込む純木造の建築となっています。内部は交流スペースを中心にして、総合案内カウンターやウッドデッキまで広く繋がった開放的な吹き抜け空間が様々な展示にも活用され、2階には事務用途の室が設けられています。床は檜板張り、天井は杉板貼り、デッキには高野槙を使用し各所に木製格子やコンクリート面に化粧板を張るなど、随所に木材利用を図り木のぬくもりを感じる空間となっています。
さらに、軸となる5寸角柱には『高野霊木』の刻印がある。『高野霊木』とは金剛峯寺保有の山林から切り出された木材の事ですが、一般的には流通していません。昔から高野山周囲では、大面積の森林が管理育成されてきました。それは多数の寺院や伽藍が存在するが、長い歴史の中で建物を焼き尽くす火災が絶えず、その度に、再建・修復のための木材が大量に必要となってきたからです。そのため、寺院の建築用材として特に重要なスギ、ヒノキ、コウヤマキ、アカマツ、モミ、ツガを『高野六木』と設定し重要視してきました。高野六木は寺院や伽藍の修繕用材以外の伐採は禁止され、長年にわたり高野六木を中心にした森林の保護育成が図られてきました。
この様に山林を貴み、木の文化を大切にする土壌において建てられた本施設が、高野山の山林・文化・歴史の再認識を促し、世界中の人々を受け入れ、世界に向けて更なる発信をすることに大きな期待を抱きつつ、高野町ひいては和歌山県全域に観光インバウンドの波及効果をもたらして発展振興となる事を切願しています。
【会報誌きのくにR3年2月号掲載】
情報・出版委員 辻本貴教